研究内容
離婚後の父母や親子の関係性と子どもの心理的適応との関連
欧米の研究によれば、離婚後の子どもの適応に影響を与える要因の一つに、離婚後も続く父母の葛藤が挙げられています(Kelly & Emery, 2003; Schaffer, 1990/2001)。日本では、婚姻中の夫婦の夫婦間葛藤が子どもに与える影響についての研究(川島他,2007)が存在するものの、離婚後の父母の関係性の在り方と子どもの適応との関連についての研究が、まだまだ少ない状況にあります。
そこで、両親が親としての役割をどのように一緒に行うかというコペアレンティング(Feinberg, 2003; 加藤他,2013)の概念に着目し、離婚後の父母のコペアレンティングと子どもの適応との関連について、実証データに基づき検討を行っています。また、コペアレンティングだけでなく、別居親との面会交流の子どもへの影響についても、検討しています。これまでに得られた知見は、以下のとおりです。
親の離婚を経験した青年期・成人期の子どもを対象とした調査
別居・離婚後の父母の葛藤の中でも、母親の面会交流に対する懸念により面会交流へのためらいを過去に感じていたことは、現在においても親の別居・離婚に伴う心理的苦痛を抱え、メンタルヘルス上の問題と関連することを示しました。これに対し、父母の協力は、別居する父親との交流実感を通じて、心理的苦痛やメンタルヘルス上の問題を軽減する可能性が示唆されました(直原・安藤,2020)。
離婚を経験し子どもと同居する母親を対象とした調査
離婚後の父母の葛藤的コペアレンティングは、直接、子どもの行動上の問題との関連が認められました。これに対し、協力的コペアレンティングは、子どもの適応とは直接関連がありませんでした。また、協力的なコペアレンティングによって高まる面会交流の促進は、暴力高群においてのみ、子どもの行動上の問題と関連していることが明らかになりました(直原・安藤,2021)。
児童期後半から思春期の子どもと母親双方を対象とした調査
離婚後の葛藤的なコペアレンティングは、子どもの葛藤の抑圧的な受けとめ、自己非難・子どもらしさの棄却を媒介して、子どもの適応の良好さと負の関連が認められました。一方、離婚後の協力的なコペアレンティングや離婚に対する父母からの説明等実感は、父母との関係性と正の関連が認められ、父母との関係性が直接、または家庭外のソーシャルサポートを介して、子どもの適応の良好さと正の関連が認められました(直原・安藤,2022)。
以上の研究結果は、サンプリングの課題など、一定の限界はあるものの、別居・離婚後も父母の葛藤が続くことは、子どもの適応にとって望ましくないという欧米の知見を支持しています。一方で、父母が協力することは、子どもの適応に間接的に良い影響を与えることが示唆されますが、そのプロセスは複雑であることが推察されます。
離婚後2年以内で子どもと同居する母親を対象とした短期縦断調査
別居・離婚後に、子どもの適応や父母の関係性が時間の経過とともにどのように変化していくのか、変化に与える要因などについて、縦断調査(追跡調査)を行っています。3か月毎に2年間の調査を予定しており、現在調査を継続しています。
調査開始から半年(調査開始,3か月後,6か月後)のデータを分析した結果、離婚後の葛藤的なコペアレンティングは、子どもの外在化問題に正の影響を及ぼし、外在化問題が内在化問題に正の影響を及ぼしていることなどが分かりました。これまでの1時点での研究では、子どもの問題行動が葛藤的なコペアレンティングを高めている影響を排除できませんでしたが、この結果から、離婚後の葛藤的なコペアレンティングが、子どもの問題行動を高めている可能性が示唆されたと言えます。そのため、離婚後の葛藤的なコペアレンティングに介入し、父母の葛藤を低下させることが、親の離婚後の子どものメンタルヘルスを保つ上で重要であることが示されました(直原・安藤・菅原,印刷中)。調査にご協力いただきました皆さま、ありがとうございました。
引き続き継続中の調査で得られたデータをさらに分析の上、報告をしていきます。
今後の研究課題
今後は、別居・離婚後も続く父母の葛藤をどのように低減することができるかについても検討していくことが必要であると考えます。