研究内容
両親間葛藤と子どもの心理的適応との関連
2021年の児童虐待の件数は約21万件に上り、過去最多を更新しています(厚生労働省,2022)。児童虐待のうち約60%を占めるのは心理的虐待で、さらにその約半数程度が面前DV(一方の親が子どもの前で他方の親に暴力を振るったり暴言を吐いたり、夫婦喧嘩を子どもに見せること)とされています(野村総合研究所, 2018)。面前DVまで至らない場合でも,両親のけんかに子どもがさらされることで,抑うつ的になったり攻撃性が高まったりするなど,子どもの心理的な問題につながることが報告されています。
しかしながら、両親のけんかを経験することがどのような心理的プロセスを経て子どもの問題行動につながるのかというメカニズムは十分に解明されているとはいえません。そこで、以下の点から研究を行っています。
両親間葛藤を測定する心理尺度の開発
両親間葛藤が子どもに与える影響を検討する上で、子どもの認知が重要であることが指摘されています。日本では、川島他(2008)や山本・伊藤(2012)など、子どもが回答する心理尺度が開発されていますが、国際比較等を見据えて、Grychらが開発し様々な言語に翻訳されているChildren's Perception of Interparental Conflict Scale (CPIC; Grych et al., 1992) を原著者の許可を得て翻訳し、日本語版を作成しました。CPICは、大野(2015)でも、日本語化の必要性が論じられていた心理尺度になります。
現在、尺度の妥当性の検討を行っています。CPICの使用をご希望の方は、直原までご連絡ください。
また、共同研究として、親が認識する葛藤や、葛藤時の親から見た子どもの反応を測定する心理尺度の邦訳や妥当性の検討も行っています。
子どもの両親間葛藤に対する対処行動の効果
両親間葛藤による子どもへの影響については、多くの先行研究で明らかになっていますが、影響を緩和する要因(保護的要因)について、十分な検討が行われていません。
そこで、2022年度B4釣谷さんの卒業研究では、両親間葛藤に対する青年(高校生)の対処行動に着目して、高校生を対象としたアンケート調査を行いました。
回答を分析したところ、両親間葛藤により青年の情緒的不安定性が高まっても、その後の両親間葛藤に対する子どもの対処行動によって、メンタルヘルスに与える影響が変化することが明らかになりました。例えば、子どものメンタルヘルスの悪化を防ぐためには、両親のけんかには関わらず距離を取ること、一人で抱え込まず誰かに相談すること、適度な気分転換をすることが重要であることが示唆されました。研究結果は、心理学研究95号3巻に掲載予定です(詳細はこちらをご覧ください)。
調査にご協力いただきました生徒の皆さまに改めて感謝申し上げます。